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『IPマネジメントレビュー』15号(2014年12月1日発行)

巻頭言

iPS細胞技術と特許
-研究成果を社会へ届けるドア-


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京都大学iPS細胞研究所 所長・教授 山中 伸弥

 

京都大学iPS細胞研究所、通称CiRA(サイラ、Center for iPS Cell Research and Application)は設立から5年目の半ばを過ぎました。開所した2010年に、私たちはiPS細胞技術を患者さんの元へと一日も早く届けるために、以下のような達成目標を立てました。

1)iPS細胞の基盤技術を確立し、知的財産を確保します。
2)再生医療用iPS細胞ストックを構築します。
3)前臨床試験を行い、臨床試験を目指します。
4)患者さん由来のiPS細胞による治療薬の開発に貢献します。

国の多大なご支援と多くの方々のご協力のおかげで、これまでいずれの目標についても順調に成果を上げてきており、パーキンソン病、血液疾患や関節疾患の治療など、臨床研究を視野に入れた段階に来ている分野も出てきています。

いずれもCiRAの活動の大きな軸となるものですが、読者の皆さんが特に注目されるのは1)の「知的財産を確保します」の部分だと思います。

大学の一研究所が、機関の目標として知的財産を大きく取り上げることは日本では珍しいのではないでしょうか。知財、特許というと、高額ライセンスや侵害訴訟が思い浮かび、所謂「お金儲け」というイメージが強いところがあります。近年は産学連携が叫ばれ、大学の研究成果をライセンスアウトして研究成果を還元することを目指す動きが普通にはなってきましたが、日本の大学の慣習・風土の中で、知財確保を明確に打ち出すことはまだ一般的とは言えません。

その中で、我々が知財を重視しているのはなぜか。

それは、iPS細胞技術を用いた臨床応用と産業化を促進するためです。研究の成果を少しでも早く社会に還元する、つまり、iPS細胞の技術を基にして生まれた治療方法や医薬品をいち早く患者さんに使って頂けるようにするために、知財、特に特許をしっかり取っていこうということです。

特許は、新しい発明をした人に、条件付きでその発明を独占することを認めるものですが、発明を独占できるということは、特許の質と使い方によってはその技術の関わる産業自体の動向を左右する大きな力を持っています。画期的な治療薬につながる基本技術が生まれても、これをカバーする基本特許が、高額のライセンス料を払わなければ使えない状況だとしたら、その特許を使えるのは高額ライセンスを支払うことのできる特定の大企業だけということになってしまい、他の企業や研究機関は参入することができなくなります。高額ライセンスが加算されることによって薬価も高くなり、せっかくの画期的な治療薬も、一部の人しか使えない高嶺の花になってしまうかもしれません。世のため人のためにと生み出された発明や技術が、必要な人の手に届きにくいものになってしまっては、研究者にとっても技術にとっても不幸なことです。

また、発明として出来上がった薬を製造販売することだけでなく、その薬や周辺技術の研究開発も、特許の壁によって参入を阻まれることがあります。多数の研究者が様々な角度から取り組めば技術は多様な方向への発展が望めますが、研究開発の裾野が広がらなければ、より素晴らしい技術が生まれる可能性を摘んでしまっているかもしれません。

我々が目指しているのは、このように特許が「壁」となってiPS細胞技術の利用や発展を阻む状況にならないよう、「壁」は「壁」でも、誰でも通れる広く開いた「ドア」のついた「壁」として作っておこう、つまり、基盤技術の特許をしっかり押さえ、これを非独占的ライセンスで多くの企業や研究機関の皆さんに広く使って頂こうということです。そうすることによって、iPS細胞の研究開発の裾野が広がり、進展も加速し、ひいては薬や治療方法といった成果を患者さんのもとにより早く届けることができるものと信じています。

iPS細胞研究は注目度も高く、内外の研究者たちが互いに鎬(しのぎ)を削っています。高くて固い鍵のついた「ドア」しかない「特許の壁」を誰か他の人が作ってしまわないとも限りません。そうなる前に、CiRAが責任をもって通り易い「ドア」のある「壁」を作らなければいけない。このことは、iPS細胞技術が世界中でより広く活用されるために、iPS細胞を生み出した者としての責務でもあると考えています。

実際に、うまく「ドア」つきの「壁」を必要なだけ建てていくことができるのか。CiRAの基本特許としては、今のところ、ある程度目的に適ったものを確立できていますが、これまでの競争には熾烈なものがありました。あるiPS細胞の基本技術に関する特許については、米国のベンチャー企業と、米国で発明日の争い、いわゆるインターフェアレンスの手続きに入る寸前のところまでいったのです。最終的には米国企業から京都大学に特許を譲渡、京都大学から同社へ使用許諾するという形で決着することができました。これは2010年から2011年にかけてのことです。

基本特許は大体取得できたとはいえ、まだ競争は続いており、予断を許さない状況です。知財の世界には独特のルールがあり、それに則って戦っていくためには専門知識を有する人材確保が不可欠です。CiRAに専門スタッフを抱えると同時に、外部にもアドバイザリー委員会を設けて助言を頂くなどの手を尽くしています。

本誌読者の皆さんは知的財産管理技能士などの知財の専門家、専門家を目指す方々が中心と聞いています。特許は基礎研究を広く世の中に届けて使ってもらうための、重要な鍵です。これに長けた人材が育つことを、研究者として大いに期待しています。少しでも多くの研究成果を社会に役立てることができるように、ぜひその力を発揮して頂き、研究成果の社会への還元という広い土俵で協力していきましょう。




山中 伸弥(Shinya Yamanaka)

1987年神戸大学医学部卒業。整形外科研修医を経て基礎医学研究に進む。1993年に大阪市立大学大学院医学研究科修了(博士)。米国グラッドストーン研究所に留学後、大阪市立大学助手、奈良先端科学技術大学院大学教授等を経て、京都大学教授。2010年より現職。iPS細胞の開発により、2012年ノーベル生理学・医学賞受賞。

掲載誌
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『IPマネジメントレビュー』 15号

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